「たとへば、こんな怪談話 4 =雲外鏡= 後日談」  …数年後、庄兵と雪枝の間に子供が産まれた…  女の子である。  お産直後の分娩室に入った庄兵は、まだ半分血塗れの我が子と対面し た。  そのとき、不思議なことが起こった…  生まれたばかりの赤ん坊が、庄兵が入ってきた途端、庄兵に対して手 を伸ばし、ニコニコと笑ったのである。  「先生、こんな事ってあるのですか…?」  庄兵が呆気にとられて聞くと、  「さ、さあ…今まで見たことも聞いたこともない…」 と、医者も驚きの言葉を返した。  不思議に思って見ていると、赤ん坊はどうやら庄兵自身を見ているの ではなく、庄兵の右肩の方を見ているのに気が付いた。  (ん?右肩…)  庄兵が不思議そうに右肩の辺りを上から下へなぞるように眺めると、  「へぇ…あの子にも私の姿が見えるのかねぇ…」 と、庄兵の耳元に静の声がした…  (そうか…赤ん坊が見ていたのは、静さんだったのか…) と、庄兵が納得すると。  「あら…やだ…、この子…そうかぁ!」 と、また耳元で静の独り合点の声がした。  「し、静さん…これはいったい…?」 と、庄兵が他の誰にも聞かれないように注意して囁くと、  「庄兵さん、この子はあの高瀬さんの生まれ変わりだよ!」  「え…っ、高瀬の…?」 と、驚いて声を出してしまった。慌てて口を押さえたが、みんなに聞こ えてしまった。  「…そうかぁ…高瀬かぁ…」  庄兵は納得した。  …数日後、星野は娘の名前を付けるのに、何のためらいもなく、”直 子”と名付けた、それは、高瀬の名前であった…  直子はすくすくと成長し、庄兵の言うことをよく聞くいい子に育った …ただ、庄兵の妻雪枝も嫉妬する程の異常なファザー・コンプレックス になったことを除けば… 藤次郎正秀